ホームにつくと、ちょうどいいタイミングでシルバーにブルーのラインの入った車両が入ってきた。
各駅停車西武球場前行き。
久々に乗るこの電車。
ソーカイヤだかなんだか知らないけど、やっぱり私はこの電車が好きだ。
懐かしい駅たちを通り過ぎ、高校時代よく通った場所へと向かう。
あの青空は無くなっても、駅名は変わらない。
西武"球場"前駅。
ここに来るのはほんとうに久しぶりだ。
しかも、この時期に。
試合開始30分前着というのはあの頃から比べたら遅すぎるが、今はこれでちょうどいい。
臨時改札の脇にある売店──昔はなかった──で生茶とプリッツを買ってゲートをくぐる。
『──先攻の千葉ロッテ…』
オーダーを聞きながら坂をのぼる。
のぼりながら、指定席に座ろう、と思った。
一番後ろの席に座ると、全てを「眺める」のにちょうどいいことを知っている。
風は冷たかったが、松坂が見れるのでよしとした。
試合開始前に、新入団・新加入選手、コーチの紹介があった。
荒木コーチが『元祖大輔が松坂大輔を指導する立場に──』と紹介されて出てきた時、重松清の小説みたいだ、と思った。
そういえば同級生に"ダイスケ"は数人存在した。
1点リードされた5回裏、一塁にランナーを置いてセンター前へ。
桃を持ってくればよかった、と少しだけ思った。
桃のかわりにプリッツでベタベタになった手で拍手する。
『背番号4は、何と言う名前の選手だろう』と、知っているにもかかわらずわざわざ頭の中で暗唱し、スコアボードで選手の名前を確かめた。
7回裏、今日の目的のひとつでもあった選手が代打で呼ばれた。
動いているところをあまり見たことがないのでかなり楽しみだったのに、相手のピッチャーがかわったため、さらに代打を出され結局は白い丸のなかにいる姿しか拝めなかった。
しかしその代打が2塁打を放ち2点が入ったのでまぁよしとした。
8回裏が終わったら帰りやすいように外野に移動しよう、と思いつつふとブルペンを見たら、出てきたらいいな、と思っていた選手が投球練習をしていた。
次、出てくるな。と、なぜかそう確信した私は、もう少しここにいようと思った。
思った通り、名前を呼ばれ出てきたその背の高い投手は、やはり松坂程の球威はないものの、三振、左飛、三振、と、危な気なく3人でしめ、ゲームセット。
ゴミを捨て、ゲートに向かい坂をくだる。
帰りものんびり各駅停車で帰ろう、と思いながら。
駅前の喫茶店にはよらず、帰路についた。
球団事務所に寄り、あまり代わり映えのしないグッズを見たりしてのんびりしていたためか、車内は案外空いていた。
隣の席に、少年3人と母親2人が座った。
ゲームに明け暮れる少年3人。
「試合中もずっとゲームばかりして…」と、あきれ顔で言う母親をよそに、画面に集中している。
いったいこの母親たちは何をしに息子たちをここにつれてきたのだろう。
向いの席には母1人少年1人。
深く座るとまだ足が床に届かない程のちいさなその少年は、必死に選手名鑑を見ていた。
おそらく今日買ってもらったのだろう。
隣のシートには、新旧入り交じった青い帽子の少年4人。
「オレ、ピッチャーの中で一番豊田が好き!」
そのなかの一人がそう叫んだ時、電車は駅を出た。
青い車内は、夕日で茜色に染まった。

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